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ウイスキーが温暖化を左右する?世界が見習うべきスコッチ業界の誠実さ

2022.11.09

泥状の炭が積み重なる湿地帯のことを「泥炭地(でいたんち)」と呼びます。膨大な二酸化炭素を土壌に固定している泥炭地の保全は、地球温暖化対策にとって欠かせない重要な問題です。そこから採取される泥炭(ピート)は、​​伝統的なスコッチウイスキーの製造過程に欠かせない材料の一つでもあります。今、多くのスコッチウイスキー生産者が泥炭地の保全に貢献するため、カーボンニュートラルなウイスキー生産に取り組んでいます。

ピートは使わない、伝統を超える挑戦

​​スコットランドで何百年も前から蒸溜されてきた「モルトウイスキー」は、原料の麦芽を乾燥させる際にピートをたくことで、芳醇なスモーキーフレーバーを醸します。高熱にさらすと不活性化する麦芽の糖化酵素ですが、ピートはこの酵素の働きを損なわせることなく適度な火力を保つため、伝統的にウイスキー造りの燃料として重宝してきました。

ピートを掘り出す泥炭地は、分解途中の植物が非常に長い時間をかけて堆積して形成されたもので、二酸化炭素の吸収源としてはもちろん、多様な動植物の生息地として貴重な役割を担っています。ウイスキー造りのためにこの貴重な資源を消費すれば、地球に炭素を放出させ、泥炭地の多様な生態系にも影響を及ぼすことになります。

この泥炭地を守るため、ピートを使わない持続可能なウイスキー造りに取り組むウイスキー生産者が増えています。スコットランドで最も古い蒸留所の一つである「フェッターケアン」では、地元のオーク材を使ったたるで熟成するという方法で、ピートを使わずとも香りを損なわない製造方法を試みています。依然としてピートの独特でスモーキーな風味を愛する根強いファンがいるものの、近年はウイスキー愛飲家たちの嗜好が多様化し、ピートを完全に排除したウイスキーが受け入れられやすくなっています。

2050年を見据えたスコッチ業界の選択

​​スコットランド西海岸で2017年に設立された「ノックニーアン蒸留所」も、ピートを使わない持続可能なウイスキー生産に挑んでいます。創業者の女性、アナベル・トーマスは、スコッチウイスキーの価値観を根本から変えようと、自然に調和したウイスキー造りを明確に打ち出しています。

ノックニーアン蒸留所は、ピートを完全に使わないという選択を始めとし、バイオマス発電を主とした蒸留所の設計など、あらゆる環境に配慮した取り組みに徹し、イギリスの蒸留所として初めてカーボンゼロ認証を獲得しました。

こうした流れの中、2021年にスコットランド・グラスゴーで開催されたCOP26(気候変動枠組条約締約国会議)でも、泥炭地の保全が議題に上がりました。スコッチウイスキー生産量の95%以上を占めるスコッチ・ウイスキー協会(SWA)は、スコットランドの泥炭地を積極的に保全し、2035年までに回復させることを約束しています。SWAでは2009年以降、温室効果ガスの排出量を34%削減。イギリス政府は2050年のカーボンニュートラル達成を掲げていますが、SWAは10年前倒しで目標達成することを目指しています。

スコッチウイスキー業界の誠実な姿勢が、世界中のファンを魅了し続ける、一つの要因になっているのでしょう。