まずは身の回りから、消費のあり方を見直す。
売れ残りや食べ残しなど、本来食べられるはずの食品が廃棄されてしまう「フードロス(食品ロス)」。今、このフードロスを削減していこうという取り組みが広がっています。
「646万トン」。国内で1年間に出たフードロスの量です(平成27年度推計・平成30年6月21日版 消費者庁消費者政策課「食品ロス削減関係参考資料」)。何万トンの食べ物といっても、ちょっと想像しにくいですが、これを国民一人あたりに換算すると、毎日お茶碗1杯分のご飯を無駄に捨てているという目安が発表されています。これは、世界中で行われている、途上国などへ向けた食糧援助の量のおよそ2倍にあたるのだそうです。
日本の食料自給率はおよそ40%で、大半を輸入に頼っているのが実情です。その一方で、食糧を大量に捨ててしまっているのが、日本の食の現状でもあるのです。
大量の廃棄食糧を処分するためには、それだけの資源やエネルギーを使うことになります。燃やすのであれば、大量の二酸化炭素を排出することになりますし、埋めるのであれば、土壌や水質への悪影響が懸念されます。これらのこともフードロスが問題視される理由の一つです。
フードロスの問題は、日本だけではなく、先進国の間でも共通の課題になっています。G7(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)の環境相会合でも、2030年までに世界全体の1人あたりの食品廃棄量を半減することを目指し、各国が協調して取り組むことで一致しました。
フードロスを減らすことは、食べ物がもったいないからということだけにとどまらず、企業にとってはコストの削減、消費者にとっても、無駄な支出を減らすことにつながります。食品を廃棄すれば、原材料費などはムダになりますし、廃棄の費用も必要です。これらのコストは、最終的には価格に上乗せされ、私たち消費者の負担になります。こうした中、企業、そして消費者の間で、意識を変えて向き合おうという動きが起きています。
その一つが、フードロスを生み出す原因になっている商慣習を変革していこうという流通やメーカーの取り組みです。それは「3分の1」と呼ばれる商慣習。例えば、賞味期限が12カ月の食品の場合だと、賞味期限の3分の1、製造から4カ月までに小売り店に納品されない食品は廃棄。さらに4カ月先の8カ月までに売れないと廃棄するというものです。そもそもは、消費者に新鮮な食品を届けるためでしたが、フードロスを減らそうと食品業界はルールを緩和し、一部で廃棄のタイミングを遅らせています。
消費者の間でも、これまで捨ててしまっていた食品を大切にして見直していこうという意識が広がっています。近年、人気を集めているのが「サルベージパーティー」です。サルベージとは、「救い出す」という意味。家庭の余り物の食材を持ち寄って、プロの料理人のアドバイスをもらい、ひと味違った料理を作って、みんなで楽しもうというパーティーです。全国各地で開催され、リピーターも増えているようです。例えば、大量のマロニーはちゃんこ鍋用スープでチャンポン風に、冷蔵庫にしまわれていた缶チューハイはデミグラスソースの隠し味に。また、缶詰の豆はフードプロセッサーでつぶしてクラッカーにのせてお酒のおつまみに、お麩は乾燥したまま、春雨サラダにのせれば食感にアクセントが加わります。参加者は調理を手伝いながら持参した食材がおいしい料理に生まれ変わっていく様子に驚き、完成するそばから食べて、ワイワイと会話を楽しみます。食べて飲んで楽しんでいるだけのように見えて、参加者のフードロスへの意識は確実に高まっています。
フードロスというと、近年では売れ残った恵方巻きだったり、飲食店での突然の予約キャンセルがニュースになったりと、商業事業のシーンで起こっているイメージが強いかもしれません。ところが、実際にフードロスを出す割合をみると、食品関連事業者が全体の55%で、残りの45%は家庭からのものです。フードロスの削減には、消費者の役割が最も大切なのです。
今日使うことが分かっているのに、賞味期限が長い食品を選ぶ必要があるのかなど、買い物の時に少し考えてみる。そんなふうに、今の消費のあり方を見直すことも必要なのではないでしょうか。